初めまして!街角キャリアラボ 運営スタッフの法政大学3年 佐藤崇至です。
今回は、かねてから文系の学生の間で人気が高い「人材業界」を、街角キャリアラボ流のビジネスモデル分析でお話ししていきたいと思います!
私自身、人材系企業で半年間の長期インターンシップを行っていました。そこで得た経験も活かしてお伝えできればよいと思います!
それでは、人材業界についてみていきたいと思います。
とはいえ、ひとくちに「人材業界」といってもその業務形態は非常に多岐にわたります(例,人材紹介、人材派遣、求人広告、HRソリューションetc.)
とても一つの記事では紹介しきれないので、今回はイメージしやすい「人材紹介業」についてお話ししていこうと思います!
商材:人材採用に係る業務の円滑化
顧客:不要な手間を省きつつ優秀な人材の採用を望む法人
もう少し具体的に言語化してみましょう。
人材業界の商材
人材紹介業における商材は「人材採用に係る業務の円滑化」と書きましたが、その本質的な価値は「人材採用で発生する煩雑な業務をエージェントが代行し、自社にマッチした優れた求職者を紹介してくれる」ことにあります。
ではより深く理解していただくために、エージェントを介さない想定で転職活動の流れを見てみましょう。
① 企業が採用案件を募集する
② 求職者が案件に応募する
③ 求職者が試験や面接などを受ける
④ 採用!
新卒採用の流れとも近しいものがありそうですね。
しかし法人からすれば、こういったフローを経て優秀な人材を獲得するのは非常に手間かかることだと言えます。例えば②、昨今の転職市場においてネット上で求人を募集する形態は広く普及しており、多くの求職者が転職サイトを通して応募しています。こうしたネットを通じて送られる大量の応募を捌くため、採用担当者は書類審査の時点から非常に大きな労力を強いられます。また本来コンタクトを取りたい優秀な人材が埋もれてしまう。ここにエージェントが仲介することでフィルターという機能を果たします。面接業務などに注力したい人事に代わって、経歴の時点で求職者が応募条件に適合しているのか、等を判断します。
他にも③に関連して、法人が求職者のどういった経歴・スキルを評価しているのかをエージェントが事前に求職者へ伝えることができます。それにより、求職者は面接で法人側が知りたい経験・スキルを、要点を抑えて伝えることができます。法人側としても必要な情報をスムーズに得ることができ、より円滑なコミュニケーションを図ることができます。
優れたキャリアコンサルタントは担当する業界や法人に向けた徹底的なヒアリングと分析を行うことで知見を積み上げ、求人案件に対するニーズをより深く理解していきます。それを元に優秀な人材を紹介し、その手腕が評価されれば、法人側から転職サイトには乗らないような非公開の求人案件を任されることがあります。言い換えると、優れたキャリアコンサルタントは「この人に頼めば自社では獲得することのできない優秀な人材を集めることができる」という価値を、法人側に見出されたということになります。こういったキャリアコンサルタントが求職者―法人間を仲介することで生まれる価値を「介在価値」と呼びます。
「煩雑な作業の代行と自社採用では得られない優秀な人材を紹介できる介在価値」これが人材紹介業が顧客に提供する最大価値と言えるでしょう。
人材業界の顧客
いやちょっと待て!人材紹介サービスを利用するのは求職者だろ!それじゃあまるで法人のためだけのサービスみたいじゃないか!
…鋭いご指摘ありがとうございます。もちろん人材紹介を行う企業にとって、求職者は重要な顧客の一人です。自力で行う転職活動では得られないような情報やつながりが、求職者に提供する商材であると言えます。そして情報だけでなく、キャリアコンサルタントは求職者と一対一のコミュニケーションを取ることができるので、依頼人の不安や疑問に向き合い、キャリアをサポートしてくれます。さながらコンサルタントのようですね。しかもこのようなサービスを無料で提供する。求職者にとって素晴らしいサービスですね。
ではここで、街角キャリアラボ流のビジネスモデル分析を振り返ってみましょう。
「商材」=そのビジネスが扱っているもの,サービス
「顧客」=何らかのニーズや課題があり、対価を払って商材を買う人、組織
つまり、本来「商材」とは「“対価を払ってくれる”顧客」に対して提供するものです。
しかし、先ほどお話したように、一般的に転職希望者に向けた求職者データベースの登録、エージェントサービスのほとんどが無料です。(就活生の皆さんが普段何気なく利用されているサービスにも似たようなものがあるのではないでしょうか?)とはいえ、もちろん担当してくれるエージェントもボランティアでやっているわけではないのでお給料が必要です。では、誰がその費用を賄っているのか…勘のいい皆さんはお気づきではないでしょうか。
そう、それが法人です!
人材紹介業においてのクライアントは求人募集を出す法人。となればエージェントはどうしてもお金を払ってくれる法人寄りのものの見方となってしまいます。
とはいえ、求職者のことをないがしろにしてよいわけではありません。「人の役に立ちたい」といったモチベーションで働く人もいるでしょうし、そもそもエージェントは優秀な求職者を確保できなければ顧客である法人からお金を払ってもらえないので。
もちろん人材系企業の広告で見かけるような「転職したいあなたのために…」といった文言がすべて嘘だというつもりはありません。しかし、このようなお金の流れ(=ビジネスモデル)を理解していないと、人材業界の本質的な理解にはつながりませんし、就活生の皆さんにとっては不必要な入社後ギャップを生むことにもつながります。
ところで、人材業界にはどのような職種があるかご存じですか?当然ながら多くの職種があり、企業によって呼び名や細かい位置づけは変わります。今回は、先ほど紹介した人材紹介業の職種について、「商材」「顧客」と絡めつつピックアップしてお話ししていきます。
まずは商材から考えてみましょう。「煩雑な作業の代行と自社採用では得られない優秀な人材を紹介できる介在価値」という商材をどのように顧客に提供するのか、それらをかたち作るのが企画職の役割です。一般に企業は競合他社を押しのけて自社のサービスを利用してもらうために、どのような差別化を行うか策定しなければなりません。そのためには競合他社がどのようなサービスを行っているのかリサーチする、経済全体の動向を予測するといったことが必要となってきます。加えて法人だけでなく、求職者にとっても利用しやすいサービスでなければなりません。そこで利用者アンケートを取り、ニーズや離脱要因を正確に把握し改善することでサービスを利用する満足度を高めていきます。このようにして顧客からの満足度を高めるためにサービスを設計する一方で、見込まれる売り上げに対してかかる費用が適切かどうか、いわゆる費用対効果も考える必要があります。
長くなってしまいましたがまとめると、企画職は自社サービスを通じて生まれる介在価値を最大限強化するために商品を設計する職種といえるのではないしょうか。その役割を果たすために、求職者や法人、時には自社の社員の目線で物事を考える想像力と、それらニーズを現状に照らし合わせどのようなアクションが必要か見極める客観的な視点が必要とされます。
となれば次にその商材を売る営業職必要になります。顧客に対し自社の商材を売り込んで取引につなげます。しかし、上述した通り人材紹介における顧客は求人を出す法人ですが、同時に求職者も重要な顧客であると言えます。そのため、一般に営業職は法人担当営業と求職者担当営業に分かれることが多いです。法人営業は担当する業界を深く理解してから顧客のニーズをヒアリングすることで採用の計画を立てます。その情報を元に求職者担当(キャリアコンサルタントとも呼ばれます)は、転職の相談に来る人や転職者データベースに掲載されている求職者に対し求人案件を紹介します。そのため、法人営業には自分の担当する業界や法人を深く理解するために粘り強く学ぶ力や交渉力が必要となります。また、キャリアコンサルタントは求職者の経歴や特性を深く読み取る洞察力と、親身になって話を聞く傾聴力、同時に感情移入しすぎず客観的な視点を保つ冷静さが必要とされます。
当然、今回紹介した職種はごくわずかです。それぞれ特徴を持つ各企業のビジネスモデルを参考にして、どういった職種が必要か想定してみるとよいかもしれません。
企業における人材という資源は依然重要な位置を占めているため、業界としての需要は無くならないと考えられます。昨今の少子高齢化により従来の“働く世代”の人口は減り続けるため、多くの企業が人材不足に悩むという現状は、今後ますます深刻化していくことでしょう。今ある人的資源をどのように活用し、またどう補っていくかというのは企業の重要な命題です。
しかし今後、人材業界にとっては不安要素も存在します。いわゆる「五輪不況」というものです。1964に行われた東京オリンピックでは倒産企業数がそれまでの3倍の約6000社となり、経済成長率も大幅に落ち込んでいます。2004年に開催されたアテネオリンピックが開催されたギリシャでは後にいわゆる「ギリシャ危機」が起こるなど、世界的にもしばしばみられる現象です。2020年開催から延期されてしまいましたが、東京オリンピック後にも同じような流れになるのであれば多くの企業が五輪不況のあおりを受けることになるでしょう。
また、昨今流行している新型コロナウイルスの影響による消費活動の落ち込みは「世界恐慌より厳しい」と言われるほど日本経済に大きな打撃を与えており、感染防止のためのヒト・モノの流れの制限は世界経済にも大きな影響を及ぼしています。
こうした厳しい財政状況が続けば、必然的に企業は経費削減を進めていきます。その流れの中で採用活動が縮小していけば、人材業界にとっては苦しい状況になることが予想されます。
では労働者の面から考えてみましょう。近年では「はたらき方改革」や過労死問題、ワークライフバランスの見直し、日本型雇用システムの崩壊、人生100年時代、YouTuberなどに代表される「好きなことで生きていく」など…キャリアに関する言葉が非常によく話題に上ります。皆さんも目にすることが多いのではないでしょうか?こういった流れを受けて、自分のキャリアを見つめ直し、転職を考える人は近年非常に増加しています。そこから転職活動の充実を図るため、転職エージェントを頼る方々も増えてくると予想されます。
このあたりで一度整理してみましょう。今までは一定数の求職者に対し、人材不足という課題を抱えた企業が多く存在したため、人材紹介業はいかに優秀な人材を見つけて企業に紹介するかに注力していました。
しかし今後は、個人のキャリアへの関心が高まることで労働者の転職ニーズが高まる一方、不況のあおりを受け企業側が採用活動を縮小していく。これによって人材紹介業は、集まった優秀な人材を紹介する企業(顧客)をいかに増やすか、により比重を置くことになると予想されます。
いかがでしたでしょうか?私自身改めて人材業界について調べていくなかで、業界にとらわれず世の中の仕組みや社会全体の流れを深く理解していくことが重要だと感じました!また機会があれば人材業界の紹介業以外の業態についても記事を書きたいと思っていますのでしばしお待ちください!
最後に、余計なお世話かもしれませんが、これを読んでいるあなたが、「人のキャリアをサポートしたい!」という強い動機で人材業界を志望するのであれば、一度立ち止まってみた方が良いかもしれません。紹介した通り、今後人材紹介業は求人企業に寄ったポジショニングが必要とされ、純粋なホスピタリティで求職者のサポートを行うのが難しくなる可能性があります。(実際、人材系企業を若くして去る方の転職はこういったギャップからだとか、、、)
自分の本質的なモチベーションはどこにあるのか、自分の志望する会社はどういったスタンスを取っているのか等々、改めて考えてみると良いかもしれませんね!
あ、企業研究する際は、街角キャリアラボ流ビジネスモデル分析をお忘れなく!