今更聞けない!CSRを企業が行う理由は何?

CSRとは「企業の社会的責任」という意味で、現代でいうところのサステナビリティやコンプライアンス遵守など、企業が存続していく上で生じるさまざまな責任を総称したものです。

過去の企業の不祥事の発生やESGやコンプライアンス意識の高まりなどさまざまな要因も相まって、企業が経営を継続する上では、業績だけでなくCSRを果たすことも求められる時代に。また、質の高いCSRの順守がその企業のブランディングとしても機能するようになってきました。今回は現代において企業がCSRを行う理由について紹介していきます。

CSRの定義と普及した背景

CSRとはCorporate Social Responsibilityの略で「企業の社会的責任」という意味になります。CSRは1970年代ごろから議論が進められており、50年以上の歴史があります。高度経済成長がひと段落して、経済成長一辺倒の企業のあり方に疑問符がつく中、不祥事の発生やESGやサステナビリティ意識の高まりも背景に、近年注目が高まっている考え方です。

CSRの定義

CSRの定義は、国際標準化機構(International Organization for Standardization)によって「ISO26000」が定められていて、具体的には次の7項目です。

  • 説明責任:企業活動が社会に対して与える影響について十分な説明を行う
  • 透明性:経営陣による意思決定や経営活動について透明性を保つ
  • 倫理的な行動:公平・誠実に倫理観高く企業活動を行う
  • ステークホルダーの利害の尊重:株主だけでなく、債権者・取引先・消費者・従業員など、さまざまな利害関係者(ステークホルダー)に配慮して企業活動を行う
  • 法の支配の尊重:自国の法令や、自社に適用される他国の法令を遵守する
  • 国際行動規範の尊重:法令のみならず、国際的に通用している規範を尊重する
  • 人権の尊重:重要・普遍的である人権を尊重する

近年意識が高まったコンプライアンス意識や、ESG、サステナブルといった項目は、全てCSRにあります。CSRとして企業が責任を果たすために、遵守や貢献が求められるようになってきた考え方と言えるでしょう。

CSRが普及した背景

CSRという考え方は、実は1970年代ごろから現れてきたもので、コンプライアンスやESGなどの考え方が普及するよりずっと前から議論されていた考え方でした。当時の日本は高度経済成長期が終わりに向かい、経営成績だけを追求する企業のあり方に疑問符がついた時期です。

そこに1970年代に発生したオイルショックにおける小売企業の買い占めや価格の釣り上げなどが起こり、不況になる中で、経済を犠牲にしても自社の利益を守る姿勢に批判が集まります。やがて、企業は経営成績を高めるだけでは足らず、社会に対する責任を果たさなければならないというCSRの考え方が広まるようになっていきます。

その後、1990年〜2000年代にかけて見られた相次ぐ企業の不祥事や、従業員の労働環境に対する意識の高まり、ESGやサステナビリティといった考え方が広まる中で、企業はCSRを土台として、社会やステークホルダーにとってより望ましい形で経営を行うようになってきているのです。

さまざまな注目トピックとCSRの関係性

コンプライアンスも働き方改革も、ESGやサステナビリティも全て、元はといえば企業がCSRを遵守すべきという流れの中で取り組みを推進しています。それぞれのトピックとCSRの関係性について整理しておきましょう。

コンプライアンスとCSR

「コンプライアンス(compliance)」は、法令や倫理観などからなる社会的規範を遵守すること、遵守する責任を意味します。コンプライアンスの遵守は、説明責任や倫理的な行動、法の支配の尊重をはじめCSRのさまざまな側面と通じる考え方です。

CSRにおける「責任を果たす」とは能動的に社会のために企業が行動することも含まれています。一方で、コンプライアンスは「遵守する」という受け身の姿勢のみにフォーカスしたものであるため、コンプライアンスを遵守するだけではCSRとしての取り組みは充分とはいえないことがわかります。

働き方改革とCSR

2010年代までにブラック企業や過労死など劣悪な労働環境を原因とした社会問題が持ち上がる中で、2010年代の半ばから「働き方改革」という労働環境の改善が進められました。労働環境の改善はステークホルダーのうち従業員保護を重視したものであり、また従業員に対して誠実に行動するという意味では倫理的な行動でもあります。また、過重労働やパワハラなどを無くすという意味では人権尊重というという側面もあります。

働き方改革もまた企業にCSRの意識があるからこそ、推進された取り組みであると言えるでしょう。一方で、主に従業員に向けられた取り組みが主となることから、働き方改革がCSRの一部分を反映しているに過ぎないことは明らかです。

ESG・サステナビリティ

ESG:環境(E: Environment)、社会(S: Social)、ガバナンス(G: Governance)の英語の頭文字を合わせた言葉。企業が長期的に成長するためには、経営においてこれら3つの観点が必要だと考えられている。
(参考:ESGとは 簡単解説 野村アセットマネジメント

環境や社会、ガバナンス向上に取り組むESGや、持続的な社会の形成を目指すサステナビリティは企業のCSRとも通じる部分が多いと言えます。ただし、前者は社会全体、世界全体の取り組みや目標であり、一企業の具体的な行動指針ではありません。

一方でESGやサステナビリティに貢献するのは、企業のCSRの中で果たすべき役割の一環であると考えられます。そのため、現代では多くの企業がESGやサステナビリティに対して、自社が果たせる役割を考え、経営活動に取り入れるようになっています。

企業がCSRに取り組む理由

過去約半世紀にわたって進化してきたCSRは、現代の企業においては遵守することが企業経営の義務の一つとなっています。また、CSRとして質の高い取り組みをおこなうことが、企業のブランディングや差別化にも役立つ世の中となったことで、さらに能動的な取り組みを進める企業が増えてきています。ここからは企業がCSRに取り組む理由についてみていきましょう。

CSRの無視は企業経営のリスク要因になる

CSRは約半世紀を経て、企業が当然取り組むべき活動となっています。そのためCSR意識の弱い企業はさまざまな経営上のリスクを負うことになります。

例えば不祥事におけるダメージはその最たる例です。例えば利益を上げていても、法令遵守や倫理観の欠如が批判を浴びたり、より悪いケースでは罰則や賠償問題に発展するケースも少なくありません。労働者の人権軽視なども、以前と比べて厳しい批判にさらされるリスク要因となっています。

本業の稼ぎが安定していたとしても、CSRを軽視することにより、経営が危ぶまれるほどに多大なダメージを与えるリスクを増やすことに。そのため、健全性の高い経営を重視する企業ほど、CSRの順守や活動を積極的に行っています。

レピュテーションや投資の引き上げが経営にも影響を及ぼす

CSRの軽視はレピュテーション(評判・風評)の悪化や投資家の投資資金の引き上げを通じて、業績にも直接的な影響を及ぼすリスク要因となります。

インターネットを通じて、消費者が多くの情報を得られる時代になりました。また購入できる商品も膨大な種類に及んだことで、消費者はより高く評価できる商品を選好するようになっています。

そのような中で、CSRを軽視した企業の悪い評価は、インターネットなどを通じて瞬く間に拡散し、その企業の評価を下げることに。消費者が商品の買い控えを進めれば、結局は売り上げの低迷にもつながりかねません。

投資家についてはさらにシビアな評価軸を持っています。現代では社会にとって望ましくない対象への投資は、たとえ直接的に経営に加わっていなかったとしても、投資家としての評価を悪化させる可能性があります。反社会的だったり、ESGやサステナビリティの考え方に合わない対象には投資しないと表明している投資家も少なくありません。

そのためCSRの取り組みが不充分な企業は投資家から資金調達がしにくくなるリスクがあります。やがて企業経営に必要な資金が不足して、充分な投資や事業活動ができなくなるリスクもあるのです。

CSRに対する質の高い取り組みはブランディングや差別化に役立つ

一部の企業ではサステナビリティやESG、ダイバーシティなどのCSRから根付いた取り組みについて、独自で先進的な取り組みを推進することで、その企業のブランディングや差別化に役立てているケースも少なくありません。

先ほどの話とは反対で、消費者は商品そのものだけでなく企業のブランディングメッセージや信頼性を重視して購入商品を選ぶようになってきています。その中で、CSRに関連する各取り組みの質が高い企業は、高い評価を得て、ブランド構築に役立つのです。

企業のマイナスの影響を与えないため、という「受動的な」インセンティブではなく、CSRを軸に他社と差別化する考えのもと、積極的にCSRに取り組む企業も多く見られます。

就職活動においてはCSRにも着目しよう

CSRはすでに半世紀以上にわたって議論されている取り組みで、ほとんどの健全な企業は経営上のリスク回避やブランディングの目的で、CSRの取り組みを積極的に推進しています。近年話題となるコンプライアンスやESGなどの課題に企業が取り組むときには、その土台にCSRがあることをおさえておきましょう。

就職活動において企業のCSRの状況についてはつい見落としがちですが、実は企業が安定的に存続する上でとても重要な概念です。ぜひ自分が目指す企業を選ぶときには、CSRに適切に注力していることを評価軸にして、志望先を絞り込むようにしましょう。

まとめ

  • CSRとは「企業の社会的責任」という意味
  • コンプライアンス・働き方改革・ESG・サステナビリティなどは全て「企業がCSRを遵守すべき」という流れの中で生まれたもの
  • CSR意識の弱い企業はさまざまな経営上のリスクを負う
  • CSRは企業が安定的に存続する上でとても重要な概念

企業が社会的責任を果たせているかを表す“CSR”。就職活動をする際には、自分がのびのびと働ける企業と出会うためにも、是非調べてみましょう!

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