企業の求人広告を見ていると、給与の欄に「固定残業制」「残業代含む」といった表記をよく目にします。
読者の方の中には、こうした表記を見て「残業がいっぱいある会社なんだ!」「ブラック企業じゃん!」と思った方も多いのではないでしょうか?
実は、固定残業制は従業員にも企業にもメリットがある制度であり、固定残業制だからといって必ずしもブラック企業というわけではありません。

今回は、固定残業制の概要やメリット・デメリットを解説し、求人広告を見るときに注意すべきポイントもまとめて紹介!就活中で求人広告に毎日目を通す方は、ぜひご一読ください。
固定残業制は毎月固定の残業手当が支給される制度

固定残業制とは、基本給に加えて一定の残業時間分の手当を必ず支払う制度です。一部の業種・職種では、みなし残業代制度とも言われます。
例えば固定残業代20時間の場合、「基本給20万円(固定残業20時間分の手当5万円含む)」といった給与体系になり、毎月5万円の残業手当が必ず支給されます。
ちなみに、固定残業制といえば、基本給の横に「残業代含む」と書かれているケースが多いイメージがありますが、残業手当として毎月固定の額を支給する場合もあります。
それぞれ見た目の給与体系は異なりますが、固定残業制という点では同じです。
固定残業制でおさえておくべきポイント
固定残業制では、おさえておくべきポイントが3つあります。
これらのポイントは知識が少ない人には誤解されやすいため、この記事を読んでいる方は必ず把握しておきましょう。
- 規定時間を超えた残業時間分の手当は追加で支給される
- 残業時間が規定時間に達さなくても一定額支給される
- 規定の残業時間分の労働は必須ではない
固定残業制を導入した企業は、規定された残業時間分の手当を毎月必ず支払わなければなりません。
例えば、固定残業20時間の企業で、先月は30時間、今月は10時間残業したとしましょう。この場合、先月分の残業代は「固定残業代 + 10時間分の残業代」で、今月分の残業代は「固定残業代のみ」です。
固定時間外の残業には残業代が支給されますし、固定時間未満でも固定残業代が減額されることはありません。
そして同様に、固定の残業時間が設定されているからといって、必ずこの時間分残業しなければならないという決まりもないのです。
固定残業制は、「必ず決まった時間だけ残業がある」「残業代は決まった額以外払われない」と誤解されやすい制度です。
しかし制度としてはそうではなく、固定残業制をどう扱うかは企業の姿勢によって大きく左右されます。
固定残業制そのものをマイナスイメージで捉えるのではなく、導入している企業の姿勢も合わせてチェックする必要があるでしょう。
企業側・労働者側からみたメリットとデメリット

固定残業制には、企業側・労働者側それぞれにメリットとデメリットが存在します。
「固定残業制だから」という理由で企業を避けてしまうのではなく、メリットとデメリットを正しく把握して、まずはどのような目的で固定残業制を導入しているか考えてみましょう。
企業側のメリット
企業側からみた固定残業制のメリットは、この3つです。
- 残業代の計算が不要になり、給与計算が楽になる
- 人件費を把握しやすくなる
- 業務効率がアップする可能性がある
企業が固定残業制にする最大のメリットは、一定の残業時間分まで固定で給与計算できる点でしょう。
繁忙期か閑散期によって労働時間が大きく異なったり、主に社外勤務のため労働時間の把握が難しかったりする場合、固定残業制にすることで給与計算の手間がかなり省けます。
また、固定残業制にすることで「残業時間を減らすほど効率よく稼げる」環境を作れるのもポイント。
残業を少なくしようと効率よく仕事する従業員が増えると、企業全体の業務効率がアップします。
企業側のデメリット
一方、固定残業制を導入することで企業に次のようなデメリットが生まれることもあります。
- 人件費の上昇
- 制度の誤解によって労働環境が悪化する可能性がある
ここでおさえておきたいのは、従業員や管理者が固定残業制を誤解することによって労働環境が悪化する可能性がある点です。
「残業代は固定分以外支払われない」「固定時間分は必ず残業しなければならない」といった固定残業制の誤解があると、以下のようなことが起こり得ます。
● 従業員が追加の残業代を請求しないでサービス残業が増える
● 管理者が長時間労働を当たり前と考え、従業員が定時退社できなくなる
これは固定残業制を正しく理解し、企業全体で正しく運用していれば避けられる事態です。
このような状況になってしまうと、従業員からの企業の評価も落ち、生産性も下がってしまいます。
労働者側のメリット
次に、労働者からみた固定残業制のメリットを確認していきましょう。
- 残業時間が少なくても高い給与がもらえる
- 忙しさに波があっても一定の給与が保証されている
労働者側の最大のメリットは、固定残業代が含まれることで給与がアップすることです。
固定残業制は働いても働かなくても一定の残業代がもらえるため、定時内で効率的に働けばその分しっかり稼げます。
生産性が高い方がより効率よく稼げるシステムになり、能力の高い社員のモチベーションアップにもつながるでしょう。
労働者側のデメリット
一方、気になるデメリットには以下のようなものが挙げられます。
- 基本給が低く設定されている可能性がある
- 追加の残業代が支払われない場合がある
- 長時間労働を強制される可能性がある
基本給に固定残業代を含める固定残業制は、企業が基本給を実際より高く見せて見栄えをよくしようと導入するケースも多いです。
例えば、「基本給25万円」のA社と「基本給35万円(固定残業代含む)」のB社という2つの企業を比べた場合、より待遇がよく見えるのはB社ではないでしょうか。
しかし実際は、B社の基本給には固定残業30時間分の手当として10万円が含まれているだけで、基本給はどちらの会社も同じ。さらにボーナスも基本給ベースで決まるため、一見B社の方が月収もボーナスも高そうですが、支払われる金額はどちらも変わりません。
固定残業制のある企業とそうでない企業を比較するときこのようなパターンが多々あるため、見かけの数字だけでなく、中身までしっかりチェックすることが重要です。
また、固定残業制を導入している企業の中には、労働者が不利益となるやり方で運用しているところもあります。
固定残業制のある企業の中からブラック企業を見極めるポイントは次の見出しで解説しているので、必ずチェックしてください。
固定残業制はブラック企業!?見極めるべきポイントを紹介

固定残業制は法律に則って実施されている制度であり、給与が固定残業制だからといってブラック企業であると断言することはできません。
しかし、固定残業制を導入している企業の中には、違法なケースもいくつか見られます。
そこで、ここからは固定残業制の企業を見るときに注意したいポイントをいくつか紹介していくので、求人広告をチェックすることが多い就活生の方はぜひ目を通してみてください。
①基本給・固定残業時間・固定残業代の計算方法が書かれているか
固定残業制を採用する場合には、以下の3つの内容を求人広告などに明示する必要があります(参照:厚生労働省)。
- 固定残業代は◯時間分か◯万円
- (固定残業代を除いた)基本給◯万円
- 実際の残業代が固定残業代を超える場合は残業代を追加して支払う[1]
これらが明記されていない求人広告の場合、その企業は固定残業制を適正に運用していない可能性があるので要注意です。
また、厚生労働省や労働局が公表した指針では、「固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法」も明記するよう求められています。
これらのポイントは行政が要求しているものですから、しっかり守っている企業を選びたいですね。
②追加の残業代が支払われるか
固定残業制は、規定の残業時間分の手当を払うよう定められたものであり、追加の残業代は別途支払う必要があります。
そのため、「うちの企業は固定残業制なので残業代はこれしか払いません」というスタンスの企業は要注意。
入社前から長時間労働が予想される業種・職種で固定残業制が導入されている場合は、事前に就労規則や人事との面談などで運用状況を確認した方がいいでしょう。
③固定残業制を理由に長時間労働を強いられていないか
固定残業制は、残業時間の有無に関わらず一定の残業代を必ず支払うものです。
そのため、残業や長時間労働を強制する理由にはなりません。
「固定残業制だから残業して当然」という風土が根強い企業の場合、労働環境がブラックな可能性もあるので注意しましょう。
④基本給は最低賃金を下回っていないか
固定残業代を含む基本給を提示している企業では、基本給が最低賃金を下回っていないかチェックすることも大切。
なぜなら、固定残業代を基本給に含むことで、不当に基本給を下げようとする企業も存在するからです。
最低賃金は時給・日給・月給によって計算方法が異なります。
固定残業代を含む基本給の場合は、まず基本給から固定残業代を除いた金額を算出し、厚生労働省サイトを参考にして最低賃金を上回っているかどうか計算してみましょう。
基本給が最低賃金を上回っていれば一応合法ですが、最低賃金ギリギリで計算されている企業なら給与面の待遇はあまり期待できません。
企業選びの際にはこうした点も考慮して、自分に合う企業を選びましょう。
まとめ
固定残業制かどうかは、企業を選ぶ上で必ずチェックしたい大きなポイントです。
「固定残業制=ブラック企業」というイメージもありますが、すべての企業がそうとは限らないことはこの記事でご理解いただけたかと思います。
これから就活に臨む方は、見かけの数字や制度だけで判断するのではなく、企業の残業時間に対する姿勢や社長の方針など、さまざまな観点から企業の本当の姿を見極めてみてください。